第4話
●プロローグ
苦笑いでため息をつき、腕の無い右肩に手を当て見る独狐求敗
独狐求敗「とはいえ、あの頃の事はこの失った腕に刻まれたままよ」
東方不敗「では今回の事、ダークのお役目などは二の次で………本当の目的は………やはり………」
独狐求敗「ああ………察する通り、全て《私怨》よ」
冷たく微笑む独狐求敗
その情景に浮かび上がるストーカー
ストーカー「東方不敗が唯一勝てなかった…いえ、勝たなかった相手、それは先代掌門の下で修練を重ねた姉弟子であり、今では《独狐求敗》と呼ばれる隻腕の剣士でありました………ですが、東方不敗の言うダーク・シャッフルの目的とは別の、《私怨》とは一体なんのことでしょう?
どうやら二人の間にこそ、物語の鍵が隠されているようです………。そして今回はその謎に迫り、全てを語ってもらう事にいたしましょう」
マイクを構えるストーカー
ストーカー「それではガンダムファイト!!
レディィイイ・ゴォォオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
高らかに宣言するストーカー
●過ぎ去りし時のギアナ………
ギアナ高地の頂上、エンジェルフォールを挟む対岸に立っている二人
若き日の姉弟子《独狐求敗》と弟弟子《東方不敗》である
弟弟子「姉弟子!手合わせを!!」
姉弟子「なら、まずは三手譲ってやろう!!」
弟弟子「その言葉、後悔なきよう!!」
掌を前に構え、空を駆ける東方不敗
弟弟子「はぁぁああああああ!!!!!!!!!!!」
そのまま姉弟子に打ちかかる弟弟子
姉弟子「まずは一手!!」
拳で掌を受ける姉弟子
姉弟子「速さ、重さ、いつもながらの良し!」
弟弟子「ならば二手めは!」
そのまま左右に周り、両手の拳で連打を繰り出す
姉弟子「我等流派の三十八番!打ち破るには左の五番で受け流す!!」
袖を翻す姉弟子
弟弟子の拳に袖が巻きつき、その体を投げ飛ばす
弟弟子「受け手は極意!!」
見ると姉弟子の背中に弟の掌の痕がついている
姉弟子「これにて三手!」
弟弟子「お次は姉弟子に三手譲りましょう!」
姉弟子「それを言うのはどの口だ!!」
そのまま、流れ落ちる滝に垂直に降り立つ姉弟子
その後を追って飛び来る弟弟子
弟弟子「はいはいはいはいはいはいはい!!!!!」
姉弟子「それそれそれそれそれそれそれ!!!!!」
拳と手刀を打ち合わせつつ、滝の流れを駆け降りる二人
その眼下にはギアナの美しい自然が広がっている
●日暮れ
姉弟子「ははははははは!!なかなかの上達ぶりだったぞ!」
弟弟子「いえいえ、姉弟子こそますます上をいかれております。これでは追いつくにはどれほどの時間がかかりますやら」
姉弟子「何?私に追いつくつもりであったか??」
弟弟子「勿論、次こそはその上を目指して!!」
姉弟子「なら、私は亀にならねばならんな!」
弟弟子「ふわ、それはいい!!」
二人「はははははははははははは」
魚と果物を手に洞窟へと帰ってくる二人
ふと見ると掌門・東方不敗が洞窟の奥に座している
弟弟子「これはお師様、いかがされました?」
掌門「うむ……今宵は少々二人に話があってな………」
掌門の前に控え座す二人
姉弟子「と、申されますと?」
弟弟子「またどこぞで荒くれ者などが不埒など?」
姉弟子「それとも、敵対流派が難癖でも?で、それを退けてくればよろしいので?」
弟弟子「ならば、不肖の私めが」
不敵に笑みを浮かべる姉弟
掌門「いやいや、そのような事ではない………」
二人の血気を宥めようと微笑む掌門
掌門「予てよりの憂いを晴らしたく思う」
二人「それは……」
一転して、覚悟で構える二人
掌門「ガンダムファイトは正しき道か………」
静かな圧力で囁く掌門
それは闇の中に淡く灯る道標のようにも聞こえる
掌門「その答えをお主たち、弟子に問いたい………」
掌門の前に座している二人の弟子
姉弟子「………………」
弟弟子「………………」
だが、二人の弟子からは答えは無い
掌門「ガンダムファイトも幾つもの大会が過ぎた………できれば私自身で答えを見極めたかったが………」
掌門の悲しげな呟きを遮るように答える姉弟子
姉弟子「ならば、私が師匠の目となりガンダムファイトを見てまいりましょう」
その言葉には掌門を労わる愛情と決意が満ちている
掌門「お前が行ってくれるか?」
姉弟子「はい」
弟弟子「では、私もお供を」
姉弟子「いや、お前は残ってお師様のお世話を」
弟弟子に優しく言葉をかける姉
弟弟子「ですが………」
互いを思う二人の言葉に微笑み喜ぶ掌門
掌門「いや、そうしてもらえると助かる」
弟弟子「は………」
自分が先に任を受けて出れば…と恥ずかしげに納得する弟弟子
掌門「さぁ………これを授けよう………」
自分の拳を姉弟子の拳に重ねる掌門
姉弟子「………これは………」
掌門「少し早いかもしれんが、江湖を渡るにはあった方が良い………」
姉弟子の拳が輝き始め、その二人の拳を憧れの目で見る弟弟子
弟弟子「ぁぁ………」
姉弟子の拳に《キング・オブ・ハート》の紋章が輝いている
弟弟子「おめでとうございます!姉弟子!!」
姉弟子に向かって急ぎ叩頭する弟弟子
弟弟子「キング・オブ・ハートの紋章!晴れてシャッフル同盟の一員の証!不肖の弟、心よりお祝い申し上げます!!」
涙目に姉弟子を見る弟弟子
弟弟子「正直言って羨ましい!!」
姉弟子「いやいや、私こそ信じられぬ事………だがこの紋章が私の気を否が応でも引き締める!!」
右の拳に輝く紋章を羨望の眼差しで見る二人
掌門「ならば頼んだぞ」
姉弟子「ははっ!!」
掌門に叩頭する姉弟子
●現在
白いマスターガンダムの手の上で空を見上げ、その過去を懐かしくも嬉しく語る独狐求敗
独狐求敗「我等流派の憂いとシャッフルの役目、その二つを背負えども決して重いものとは思わなんだ」
東方不敗「確かにあの朝、旅立つ姉弟子の姿は希望に満ちておりました」
× × ×
〜過去インサート〜
唐傘を広げ、それをパラシュートのようにして、ギアナの滝から下界へと飛び降りる独狐求敗
姉弟子「!!!!!!!!!」
その顔は晴れやかである
× × ×
独狐求敗「そして私はガンダムファイトが行われているこの世界を一人………」
過去を思い出す独狐求敗
その表情は次第に暗く重いものになっていく
独狐求敗「………そこで見たものは地上に住む人々を無視し、ガンダムとガンダムがひたすら戦って戦って戦い抜いて、ガンダム・ザ・ガンダムの座を争う姿だった………だがな、私の目にはひたすら猿山のボスの座を争うようにしか見えなんだ………」
× × ×
〜過去インサート〜
壮絶な戦いを巻き起こすガンダム同士
その様子を遠くから見ている姉弟子
更に宇宙のコロニーで地上の戦いを楽しむ人々
× × ×
独狐求敗「しかもコロニーの上の人々は、そんな地上の様子を楽しみ、賭けの対象とし、すでにファイトの真の目的などどうでもいいようにしか捉えていない………」
怒りが溢れ出す独狐求敗
独狐求敗「そうだ!もはや誰が覇権を握ろうが気になどしていないのだ!!その戦いで被害に遭う人々など見て見ぬふりでな!!」
手にした白扇子を打ち鳴らす
独狐求敗「そして、忘れもせぬあの地の出来事!!」
怒りに溢れる独狐求敗
独狐求敗「ついに私はシャッフルの不介入の掟を破ってしまったのだ!!」
●過去・地上のある地方
変形しつつ立ち上がる《シャッフル・ハート》
姉弟子「この不埒者めがぁぁあああ!!!!!!」
ファイト中の2体のガンダムに割って入るシャッフル・ハート
2体のガンダムを村の外へと引っ張り出す姉弟子
姉弟子「己が何をしているかが分からぬかぁああ!!!!」
壊滅状態の村を指し示す
その周囲には村人たちが倒れている
ガンダム1「うるさい!俺たちはガンダムファイターだ!!遊んでいるように見えたか!」
ガンダム2「よくも故郷の威信を背負ったファイトの邪魔を!!」
立ち上がり姉弟子に立ち向かおうとする2体のガンダム
姉弟子「うるさい!!これの何が威信だ!!!」
白扇子でガンダムを打ち据える姉弟子
姉弟子「貴様らにはこの技で十分だ!!鉄扇子!!!」
巨大化する白扇子のひと扇ぎ
2体のガンダムが吹き飛ばされる
ガンダム1「な、なんだこいつぅぅううううう?!」
ガンダム2「ファイターでもねぇのに!!」
ふと気づくガンダム1
ガンダム1「って、この機体?!まさかシャッフル?!」
気づくガンダムたち
ガンダム2「だとすると相手をするのはマズいぞ!!」
ガンダム1「ここは一旦ひきあげて、シャッフルの介入を委員会に報告だ!!」
ガンダム2「あぁ、これじゃファイトにならねぇ!!」
急ぎ引き上げる2体のガンダム
姉弟子「うつけ者めが!!!」
怒り見送る姉弟子
× × ×
しばらくの後
火の燻る村の中で集まる人々
姉弟子「………………」
その情景を高台から悲しげに見る姉弟子
そこへ一人の幼子がやってくる
姉弟子「うん?どうした?」
寂しげな幼子を見て気づく姉弟子
姉弟子「そうか………身寄りがいなくなったか………?」
幼子「………」
姉弟子の問いに頷く幼子
姉弟子「だが、これ以上私に出来る事は何もない………」
残念げに首を振る姉弟子
その前に木の枝を剣のように持ち構える幼子
幼子「………」
姉弟子「その枝がどうした?」
ふと気づく姉弟子
姉弟子「はは!まさか私と戦おうと??」
幼子「………………」
黙ったまま首を振る幼子
姉弟子「ではなんだ??………と、まさか、その枝は剣??」
幼子「!」
頷く幼子
姉弟子「私の弟子になりたいと??」
驚く姉弟子
その前で枝を剣のように振り、剣士の真似をする幼子
幼子「!」
「!」
「!」
一振り一振りに力を込める幼子
姉弟子「はは、これは良い!なかなか筋があるかもしれんぞ」
幼子「!!!」
喜ぶ幼子
姉弟子「だがな、私は使命を持って動いている………それは今日のような危険を伴う………さすがに幼い弟子を連れるのはな………それに、弟子を持つなら我が掌門にお許しを得ねばならん………」
困る姉弟子
幼子「………」
それでも熱望の眼差しで姉弟子を見る幼子に、ふと思い立つ
姉弟子「そうだ!!今日はその剣を使って一手だけ見せよう。そしてお前がもう少し大きくなった頃、私はここへ帰って来る」
幼子「!!」
期待を瞳に浮かべる幼子
姉弟子「でな、その時、私の体にその剣で触れる事ができれば、弟子にしてやろう」
幼子「!!!」
喜び頷く幼子
× × ×
姉弟子と並び、その剣の動きを追い習う幼子
姉弟子「………………」
幼子「………………」
その静かな動きが夕日に映える
× × ×
やがて別れ、幼子は村へと帰っていく
その後ろ姿を見送る姉弟子
姉弟子「さて………私の体に剣で触れるとは、少々無理難題であったかな………だが、そうでもせねば諦めるような目ではなかった………」
背を向け去っていこうとする姉弟子
その瞬間、激震と共に爆発が起こる
見れば、幼子がたどり着いた村が一瞬にして吹き飛び、更に無数の兵器が飛び走り、村は跡形も無くなっていく
それでも兵器を発射しつつ迫る一団
先ほどの2体のガンダムのクルーたちの船である
ガンダム1「出てこいシャッフル!!!」
ガンダム2「ガンダムファイトを邪魔するは御法度よ!!」
1&2「力ずくで成敗してやる!!」
更に村を吹き飛ばすガンダムたち
ついに巨大クレーターへと姿を変える村
その中に落ちている一本の枝
それを前に立ち尽くすシャッフル・ハート
姉弟子「おのれぇぇぇぇえええええええ!!!!!!!」
拳の紋章が紅く燃える
姉弟子「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
咆哮と共に一団に切り込む姉弟子
●現在
苦笑する独狐求敗
独狐求敗「結局は私もお前たちの事を責められぬ身よ………」
東方不敗「その一件………後に知りましたが、その所業は故意による破壊であり、国際条約の理念でも禁じられていて、姉弟子の介入は委員会から不問とすると………」
独狐求敗「ふん………それでは故意でなければ許されるというのか?」
東方不敗「それは………」
独狐求敗の言葉に苦悶する
独狐求敗「何にせよ、条約で破壊を正当化するなど全くもって傲慢な………だがな、あの時の私はそんな事さえどうでもよかった………」
●過去
ギアナに帰ってくる姉弟子
その姿は絶望に満ちている
姉弟子「不肖者、ただいま戻りましてございます………」
掌門に叩頭し、帰還の挨拶をする
掌門「うむ………ご苦労であったな」
姉弟子「ですが、私めは不介入の掟を破り、キング・オブ・ハートとしての役目を………」
ふと気づく独狐求敗
弟弟子「………………」
弟弟子が掌門の近くに並び、姉弟子の自分よりも高座にいる事に気づく
姉弟子「弟よ………何故にそこに?」
弟弟子「それが………」
掌門「いや、ワシから話そう」
口籠る弟弟子を止める掌門
掌門「我が流派の宝《東方の珠》を授けた」
姉弟子「な、なんと!!それでは?! 」
愕然となる姉弟子
掌門「さよう、先日代替わりの儀を済ませ、今はこの者が流派東方不敗の掌門である」
申し訳なさそうにうつむく新掌門の弟弟子・東方不敗
東方不敗「………………」
姉弟子「う…うそだ………嘘であろう??弟よ!」
愕然となる姉弟子の言葉に痛ましげに首を振る東方不敗
東方不敗「私も………それはおかしいと申し上げました………」
言葉が濁り出す
東方不敗「確かに、キング・オブ・ハートと流派の掌門《東方不敗》の名は別のもの……今までも、キングの紋章を別の流派の者が継いだことは珍しい事ではありません」
姉弟子「だが何故………何故にして?!」
東方不敗に喰いかかる姉弟子
先代掌門「これ!掌門を前に何だ、それに挨拶がまだであろう?」
姉弟子「わ、私に………弟弟子に叩頭しろと??」
先代掌門「もう弟ではない!」
先代の言葉に動転を抑えきれなくなる姉弟子
姉弟子「バカなバカな!!!腕は私の方が遥かに上!!下界での経験も、技も何もかも私が上を行き、何もかも!何もかも!!私こそが正統の掌門だ!!!いや!!まさか………」
ふと気づく姉弟子
姉弟子「あぁ………やはりガンダムファイトに介入した事が?!」
先代掌門「それは違う」
姉弟子「それでは何故………あぁ、弟よ………」
東方不敗を怒り見る姉弟子
姉弟子「お前か………お前が掌門をたぶらかしたか?私のおらぬ間に掌門を?そのために私をガンダムファイトの調査に行かせたのか???」
東方不敗「違います!そのような事は決して!!」
姉弟子「うるさい!!これでは私は何のために!!何のためにこれまで!!」
錯乱する姉弟子
姉弟子「掌門は!!東方不敗の名は私が継ぐ!!返せ!!名を!!東方の珠を!!!」
剣を抜く姉弟子
東方不敗の頭上へと全力で振り下ろす
先代掌門「やめんか!!」
止めようと出る先代掌門
姉弟子「ああああああああ!!!!!!」
剣に走る衝撃
姉弟子「?!?!?」
次の瞬間、信じられないものを見る姉弟子
剣を素手の拝み手で受け止めている東方不敗
東方不敗「………」
姉弟子「こ……これは………石破天驚の………」
東方不敗の手と剣の間にわずかな隙間があり、そこで震え止まっている剣
姉弟子「奥義書にも無く、掌門から口伝を持って伝えられる流派の最終奥義………それまでも……」
愕然となる姉弟子
姉弟子「これでは………私は………勝てぬ………」
呆然としつつ二歩三歩と後ろずさり、剣を握り直す
姉弟子「しからば!!」
瞬間、剣を左手にし、右肩から自分の腕を斬り落とす姉弟子
姉弟子「弟子!キングの紋章をお返しし、流派東方不敗を出奔いたします!御免!!」
東方不敗と先代に一礼し、去っていく姉弟子
東方不敗「姉弟子………」
悲しげに見送り、叩頭する東方不敗
その前には斬り落とされた腕があり、その拳のキング・オブ・ハートの紋章が消えかかっている
●現在
掌門の座が引き起こした流派の悲劇を思い返す二人
東方不敗「………………」
独狐求敗「今となっては過去の事………そう自分を誤魔化したくなる事もあった………、」
東方不敗「あの時、私が石破天驚を見せなければ………今日という日も………」
独狐求敗「言うな………」
苦笑いで東方不敗を見る独狐求敗
独狐求敗「おそらく、あの時は皆が正しい判断をしたのだ………今更恨む事はない………」
ドモン「ですが、それでは《私怨》というものは??」
不思議げに問うドモン
独狐求敗「聞きたいか?」
ドモン「………」
恐る恐る頷くドモン
独狐求敗「よかろう………何せ末席のお前に一番関わる事よ………ただし、聞こうが聞くまいが、お前に待っているのは《死》だからのう?」
独狐求敗に冷たい微笑みが戻ってくる
× × ×
〜過去〜
過去のさまざまな思い出に重なる独狐求敗の回想
独狐求敗「ギアナの大地を後にした私は世界を流れ歩き、掌門になれなかった悔しさを晴らすべく、江湖武林の使い手たちと戦い、幾つの流派を潰した事か…………
敵対する流派、擦り寄る流派、時として常に平和的立場を取ってきた流派と相手構わず跡形も無く壊滅させた……」
馬賊を相手に、独り剣を持って待ち構える姉弟子
道場に乗り込み、惨殺を始める姉弟子
旅の武術者に襲い掛かる姉弟子
去っていく姉弟子の後ろに転がる死屍累々
独狐求敗「またガンダムファイトのある年は、偶然出会ったガンダムからファイターを引き摺り出し、その命を奪い、またある年はガンダム狩りとして、ファイターを追いかけ次々と始末していったものだ………」
次々と倒れるガンダム
爆発を起こし、コクピットから出てくるファイター
そこを捕まえ、剣で斬る姉弟子
独狐求敗「もはや私にとってガンダムとは、ガンダムファイターとは全て弱き獲物であったわ」
墓場に並ぶガンダムの残骸
独狐求敗「私の通った跡には武術者が一人も残っておらず、命そのものが無かった………
そして人から見れば私の姿は、ただ死に場所を求め暴れる力の塊にしか見えず、いつしか人は私を《敗を求める孤独な女狐》………《独狐求敗》と呼んでおったわ………」
荒野に独り立つ隻腕の独狐求敗
× × ×
ドモン「聞いた事がある………ある年のガンダムファイトが危うく中止になりかけた事があったと………原因はこのお方が………」
唖然と聞き入るドモン
東方不敗「だが、サバイバル・イレブンの生き残り概念からすると、そのような壁もまた試練の一つ………そう受け入れられたのだ………」
独狐求敗「期待はずれだったよ………できれば大挙して私を倒しに来るかと思ってみたが………それも叶わず………やはり、私が敗れるのは流派の最終奥義《石破天驚拳》のみ………なのに弟よ!お前は私の前には現れなかった!!…………そして私は生きることの意味、戦うことの意味を失い、全てを諦めようとした時のこと………」
●過去
荒野に腰を下ろして夕陽に染まる紅い空を見ている独狐求敗
ふと背中に何かの感触を感じる
独狐求敗「!?!」
青ざめる独狐求敗
独狐求敗(現在)「その時、私は悟った!!これは《敗》だ………!間違いない!!私に気づかれず背中を取り、剣を突き立てている!!ついに私が敗れる時が来たのだ!」
喜び振り向く独狐求敗
独狐求敗「………うぅ………」
呆気にとられる独狐求敗
少年「………」
そこには一本の枝を持った少年が立っているだけであった
独狐求敗「い………今のは………お前が??」
ふと気づく独狐求敗
続けて周囲を見渡す
周囲は巨大なクレーターであり、自分はその中心の小高い丘にいることに気づく
独狐求敗「ここは………あの時の………」
呆然とする独狐求敗
独狐求敗「それに、お前は?」
× × ×
〜インサート〜
姉弟子「そうだ!!今日はその剣を使って一手だけ見せよう。そしてお前がもう少し大きくなった頃、私はここへ帰って来る」
幼子「!!」
期待を瞳に浮かべる幼子
姉弟子「でな、その時、私の体にその剣で触れる事ができれば、弟子にしてやろう」
幼子「!!!」
喜び頷く幼子
× × ×
独狐求敗「あの時の………」
少年の肩に手をかける独狐求敗
独狐求敗「あの時の幼子か?!」
少年「!」
力強く頷く少年
独狐求敗「よくぞ………よくぞ生きておった!!!生きておったぁああああ!!!!」
少年を抱きしめ慟哭する独狐求敗
その声が荒野に響く
●現在
独狐求敗の独白に聞き入る東方不敗とドモン
東方不敗「なるほど………それが弟子を持った経緯でしたか………」
独狐求敗「そうだ………あの時、あやつの姿を見た事で、私が生きるに意味ありと思い出させてくれた………いや、初めて生きる意味を知ったのかもしれん」
嬉しげに懐かしむ独狐求敗
東方不敗「それに、殺意がなかったとはいえ、枝一本で姉弟子の背中を獲るとは………どこかのバカ弟子とはえらい違いだ」
皮肉げにドモンを見る東方不敗
ドモン「う………」
言葉を返せないドモン
繕うように独狐求敗に聞き返す
ドモン「ですが、そのお弟子は今どこに?そのような才覚の持ち主なら江湖武林にその名を響かせても」
独狐求敗「死におったわ………」
ドモン「え?!」
独狐求敗「今思い出しても、あれほどの逸材は二度と現れまい………おそらくは私やお主の師匠、そこにいる東方不敗など遥かに凌駕したであろう………なのに……なのに、うつけ者めが!!」
悲しみの色が強くなる独狐求敗
●過去
稽古に勤しむ独狐求敗と弟子の姿
独狐求敗「約束通り……私は少年の弟子入りを許し、《独狐求敗》の門派として育て上げた………」
稽古に熱が入る独狐求敗と少年
拳を合わせ、流れる水のごとくに演舞を重ね舞う二人
匕首を的に当て、
小石を指で弾き大木を倒し、
棍、剣術、鍾、鞭、環と、
さまざまな格闘武器を修練する二人
最後に棍を撃ち合う
独狐求敗「!!!」
少年弟子「!!!」
打ち合わさった二人の棍が軋みあい、
同時に離れると共に、音をたて折れてしまう
独狐求敗「ははははははは!!!!!」
少年弟子「!!!!!!!!!!!!」
笑顔で笑い合う二人
いつしか弟子は少年ではなく、青年になっている
独狐求敗(現在)「弟子入りと共に知った事だが、あれは生来口が聞けなかった………あの心の強さはそれもあってのことだろう………結局、私は弟子の声を聞くことは一度も無かった………」
黙ったまま微笑む青年弟子
独狐求敗(現在)「それでも私はこの上ない弟子を持ったものよと、本当に人生を満足に送っていた………東方不敗の掌門の座に固執した自分が嘘のようにな………」
白装束で独狐求敗の前に膝をつく青年弟子
独狐求敗(現在)「だが、ある日………しばらく町に出かけていた弟子が戻ってきた時のことだった………」
一枚の書状を独狐求敗に差し出す青年弟子
独狐求敗「これは………ガンダムファイトの召集令状?!」
唖然となる独狐求敗
独狐求敗「お前はこれを受けたのか?!自分の意志でか?!」
青年弟子「………」
静かに頷く青年弟子
独狐求敗(現在)「私はただただ、目を疑うだけだった………この弟子はあの幼子だった頃の惨劇を忘れてしまったのか?村が、人々がどうなったのか?自分の親、家族もいただろう?なのに全ての元凶のガンダムファイトに出るなどと?!」
怒りで白扇子を手に青年弟子を打ち据える独狐求敗
独狐求敗(現在)「しかも、いくら問いただしてもその理由を明かす事は無かった!せめて、せめて今度ばかりは口をきいてくれ!!そう思った!」
黙って叩頭したまま打たれる青年弟子
青年弟子「………………」
独狐求敗「………………」
ついに手を止め、怒りで青年弟子を見据える独狐求敗
独狐求敗「もうよい!好きにせい!!ただし、この日限りでお前は破門!!今すぐ出ていけ!!」
怒り青年弟子を罵倒する独狐求敗
青年弟子「………………」
改めて叩頭し、去っていく青年弟子
●現在
ドモン「ガンダムファイトに??」
独狐求敗「ああ………そうして、私は再び独狐となり、その一年を苦々しく送っていた」
肩を落とす独狐求敗
× × ×
〜回想〜
再び独りで稽古に明け暮れる独狐求敗
独狐求敗(過去)「………うつけが………うつけものが!!!」
生気を失った瞳で紅い空に剣を振るう独狐求敗
× × ×
独狐求敗「そして、半年が過ぎた頃………私にある知らせが入った」
ドモン「それは………まさか??」
独狐求敗「弟子の敗戦と………死亡………」
落ち着きを保とうとする独狐求敗
だが、怒りを抑えきれなくなる
独狐求敗「そして……そのファイトの相手の名こそ、ネオホンコンのガンダムファイター、東方不敗!!」
ドモン「!?」
驚くドモン
東方不敗「………」
かすかな皮肉の笑みを浮かべる東方不敗
続く……